■ 少年探偵レオン

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note 5. 「熊が出たぞう」事件 [解決編]

「共犯者はウィックス、君だね」
「うっ!」
 レオンに指さされて、ウィックスは狼狽えた。わかりやすい男である。
「おいおい、マジかよ」
 ボーマンが呆れたように言った。
「ち、ちょっと待ってよ! なんの根拠があって……」
「じゃ聞くけど、君はリンガに行って、ちゃんと噂の調査をしたのかい?」
 ウィックスの言葉を遮って、レオンが訊ねる。
「し、したさ! だからこの森に来て真相を確かめようと……」
「問題なのはね、君が『熊は一頭しかいない』と思いこんでいたことなんだ」
 またウィックスが言い終わらないうちに話し始める。完全にレオンのペースにはまっている。
「たしかに熊は一頭しかいなかったね。たぶん君が街で噂を流しはじめたときも、一頭だけのつもりで話していたんだろう。でもね、噂ってのは広まっていくうちに尾びれ背びれがくっついてしまうものなんだよ。最初は『熊は一頭』だったはずが、気がついたら『たくさんうろついている』に噂がすり替わってしまっていたんだ」
「なんだって?」
 やはり彼は知らなかったようだ。声が裏返っている。
「ボクらも熊は複数いるものだと思ってここに来た。だから君が『たかが熊一頭』って言ったとき、変だと思ったんだ。君の最大のミスは、広まった後にもういちど噂の内容を確認しなかったことだね。噂が広まってから調査に来たのなら、オリジナルの噂を知ってるはずがない。けど、君が噂を広めた張本人なら話は別だ」
「う……」
 ウィックスは言葉を失った。もはや言い逃れのできないこの状況に、彼はもう青くなるしかなかった。
「……ったく。一体なんだってこんなアホな真似をやらかしたんだ?」
 ボーマンが聞くと、ウィックスは下を向いたまま、観念したようにぼそりと呟いた。
「……そこの知り合いに頼みこんで、協力してもらったんだ……その、熊でも退治すれば、名が上がるかと思って……」
「はぁ? それだけか?」
 ウィックスは急に顔を上げて、怪訝な顔をするボーマンを睨む。
「だいたいな、お前のせいなんだぞ。お前がいたおかげで僕はいつも二番だった。いつだってお前ばかりが期待され、嘱望されて、僕には誰も目を向けてくれなかった。そのせいで僕がどれだけ辛酸をなめてきたか、お前にわかるか?」
「だからって、自作自演までして名を上げようとすんなよ」
「うるさいうるさい! お前なんかに僕の気持ちがわかってたまるか!」
 最後にはどっかりと地面に座りこんで、居直ってしまった。どうにでもしてくれと言わんばかりに。
「どうするんだ、レオン? やっぱりここはラクール王に報告した方が……」
 クロードが言うと、レオンはわざとらしく両手を広げて伸びをした。
「んー。どーしよっかなー? 報告してもいいけど、面倒だからなぁ。そんな大した事件じゃないしねぇ」
 ウィックスの表情が変わるのを横目でチラッと見てから、素っ気ないそぶりで続ける。
「ま、ボクがなんにも言わなけりゃ、王様にバレることはないだろうけどね。『熊はいませんでした』と報告しちゃえば、この件はそれでおしまいだ。おとがめもないだろう」
 ウィックスが驚いたようにレオンを見た。その視線を意識しながら、レオンは意地悪く言う。
「まぁ、別にどっちでもいいんだけどねー。言おうが言うまいが、ボクには関係のないことだし。……あーあ、なんだか疲れちゃった。ずっと歩きづめだったからなぁ」
「あっ!」
 ウィックスは突然立ち上がって、腰を低くしながらレオンにすり寄る。
「いやいやレオン博士、気づきませんで申し訳ありませんでした。さぞやお疲れでしょう。ささ、わたくしめの背中に」
「そーお? 悪いねぇ。じゃ、遠慮なく」
 レオンが屈んでいるウィックスの背中から手を回すと、ウィックスは少しよろめきながらもレオンを背負って立ち上がった。
「それじゃ、リンガに帰ろうかー」
「は、はいはい。仰せのままに」
 おぼつかない足取りで森の小径を歩いてゆくウィックスと、上機嫌に腕を振り上げて背中ではしゃぐレオン。他の者は呆気にとられたまま、それを見つめている。
「……なんか、あの人が一番になれないって理由、なんとなくわかった気がします……」
「だろ? 別に俺のせいじゃねぇんだよ」
 クロードにそう言ってから、ボーマンは深々と嘆息した。

 数日後。
 ウィックスの涙ぐましい努力の甲斐なく、彼の自作自演はレオンの口からラクール王へと伝わることとなった。彼はかろうじて首はつながったものの、減給と向こう二年間の昇進停止という処分を受けることになる。
 が、それはまた、別の話である。


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