■ 少年探偵レオン

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note 8. 空を飛ぶ鍵 [解決編]

「えっと、ローブ着た男のひとがいたよね」
「ダルディのことかい?」
 新郎が言うと、レオンは頷いた。
「そのひとが犯人だよ」
「どうして?」
 複雑そうな顔をする新郎の代わりに、レナが訊いた。
「ポイントは、紙袋ごと祝い金を盗んでいったってことだね」
 と、レオン。
「お金だけを取り出してる暇がなかったから紙袋ごと持っていったんだろうけど、それが失敗だったね」
「失敗?」
「だいたい考えてもみてよ。ここからみんなのいる部屋に戻るには、執事室の前を通らなくちゃいけないんだよ。紙袋なんか持って通ったら執事さんが気づかないはずないじゃないか」
「それに、僕はずっとみんなと一緒にいたけど、それらしいものを持ってる様子はなかった」
 レオンの言葉に、新郎も神妙に請け合う。
「どこかに隠したんじゃ……って、ああ、そういうことか」
 クロードは合点がいったようで、大きく頷いた。
「そ。つまり、ノートの入った紙袋を身体のどこかに隠すことができるひとでないと、持ち出すのは無理なんだ」
「ティルクは礼服だし、タカモトも軽装で袋を隠せるような恰好じゃなかった……」
「その点、ダルディさんはローブのポケットがあるな」
「でも、あのポケットって確か……」
 レナの言葉をレオンが制して。
「本を入れていたよね。でも朝に見たときは、本は手で持ってた。たぶんトイレから帰ってからは、ずっとポケットに入れてなかったんじゃないかな」
「言われてみれば……」
「確かに……」
 新郎と執事が同じように遠い目をして今朝のことを思い返す。
「ま、本当かどうかは直接本人を調べてればわかるよ」
「そうだ。さっき出ていったばかりだからまだ追いつけるかも! じい!」
「かしこまりましたっ!」
 執事はすぐさま部屋を出て、バタバタと足音を立てながら廊下を駆けていった。
「けどさ」
 クロードがレオンに訊いた。
「あの三人が鍵を持ち出せた理由ってのが、まだわからないんだけど」
「ああ、それね」
 と、レオンは白衣のポケットに手を入れて何かを取り出した。
「羽根?」
「廊下に落ちてたんだ。たぶん、カラスのだと思うよ」
「なんで廊下にカラスの羽根が……」
「ああ、またあいつが入ってきたのかな」
 新郎が羽根を見て言った。
「あいつ?」
「昨日見たでしょう。庭の樹の上にカラスが巣を作ってるんですよ」
「あの、怪盗を襲っていたカラス?」
「ええ。この旧館と向こうの新館を結ぶ渡り廊下は窓にガラスが填められてなくて、そこからしょっちゅうカラスが入りこんでくるんです。いくら追い払っても入ってくるので、僕らも困っていたのですが」
「それで、カラスがどうしたんだ?」
 クロードがレオンに振ると、今度は逆のポケットを探る。
「もうひとつは、これ」
 取り出したのは、銀色の古風な鍵。
「その鍵って、もしかして……」
「執事室に保管してあった鍵のひとつだろうね。これは渡り廊下の隅っこに落ちてた」
「どうしてそんなとこに」
「カラスが落としていったんだよ」
 レオンは少し困ったように笑った。
「執事さんは暑いからドアを開けたって言ってた。けど普通は、風通しをよくするにはドアだけじゃなくて部屋の窓も開けるよね。実際さっき見たら開いてたし。で、窓のそばにはあの鍵掛けがあった」
「つまりなんだ、カラスはその窓からこっそり鍵を盗んだっていうのか?」
「だから確証はないって言ったじゃないか」
 疑わしげなクロードに、レオンは拗ねるように言い返した。
「カラスは鍵を小枝かなんかと見間違えたんじゃないかな。ほら、巣を怪盗に壊されたでしょ? それを修理するために枝を集めていたってのは、充分に考えられるよ」
「で、それが渡り廊下に落ちていたのは?」
「うっかり落としたか、枝じゃないと気づいて落としたか……あの渡り廊下は両側に窓がついているから、カラスは通り道にしていたんじゃないかな」
「それじゃあ、たまたま落とした鍵を、たまたま通りかかったダルディさんが拾ったと……」
 クロードは腕を組んで難しい顔をした。
「うーん……飛躍しすぎてないか?」
「だから確証はないって何度も……」
「坊ちゃーーーーん!」
 レオンが顔を赤くして反論しようとしたとき、外で誰かが大声で叫んでいる。窓際に集まって見ると、門の前で執事が大きく手を振っている。もう片方の手には、紙袋が。
「じい! やっぱりダルディが!?」
 新郎が窓を開けて訊いた。
「はい。話をつけてこの通り、返していただきましたよー!」
「そうか、よかった……」
 新郎は壁に寄りかかって、大きく息をついた。
「ま、カラスの推理は合ってたかどうかわかんないけどさ」
 レオンがクロードに言った。
「終わりよければすべてよし、ってね」
「……なんか違うぞ、それ……」
 納得いかない表情のまま、クロードは言った。


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