■ 小説 WILD ARMS 2nd IGNITION


Episode 7 ファルガイアサミット

 止めどないさざなみのような雨音を聞きながら、彼女は闇の中を彷徨さまよっていた。
 身体をさいな疼痛とうつうに顔を歪め、身体を前に傾けながらのろのろと進み行く。粘土質の地面は降りしきる雨にすっかり緩み、踏み出すごとに足首まで沈み込んだ。
 街は──まだか。
 すがるような視線を前方に差し向けるが、光明は見えない。
 早く街に戻らなければ。
 屋根のある場所で体を乾かし、休息を取り──。
「くぅッ……」
 きりで神経を突かれたような痛みが走り、全身を強張こわばらせる。
 長時間痛みにさらされたせいか、もはやどの部分が痛んでいるのかも判然はっきりしない。疲労によって他の感覚は鈍くなったというのに、痛覚だけはむしろ増幅し、拡散し、身体の内側から彼女を蝕み続けている。
 この痛みから、逃れたい。
 逃れたいのに。
 足許を見る。
 靴に、泥がべったりと付着している。
 泥が。
 泥が邪魔だ。
 この泥を除けなければ──。
 足の甲に積もった泥土を払おうと身を屈めたとき──世界が混濁した。
 膝がずぶりと泥に沈む。続いて両腕が、肩が、頭が。
 からす尾羽おばねを思わせる黒髪も、くびから二の腕までを覆っている外套がいとうも、水気をたっぷり含んだ土にまみれ、汚れてしまった。
 身体が重い。疲労か、それとも全身にこびりついた泥の所為せいか──。
 起き上がるのを諦めて、彼女は泥濘ぬかるみの上に横たわった。
 目の前には泥。泥。泥。半ば泥に埋もれながら、泥を眺める。
 土の臭いが鼻腔びくうに入り、口には土の苦味が広がる。脱力したことで痛みが和らぎ、他の感覚も戻ってきたようだ。
 身体の外も内側も、すっかり泥にけがされた。
 だけど、それでも。

 ──生きる。
 生きてやる。

 耳の奥で、幼い少女の声がこだまする。
 それは、まだ何も知らなかった頃の自分。

 ──そう。
 あのときも、私は泥に塗れていた。
 世界を恨み、絶望し。
 そして。

 亡霊となった──。


 ──かしゃん。

 音が。

 かしゃ……きぃ……かしゃ……。

 耳障りな音が聞こえる。

 金属が擦れる音。
 金属が地面に落ちる音。
 金属同士がぶつかる甲高い音。

 鉛色の雲で覆われた空の下。
 無機質な色が支配する世界で。
 薄汚れた少女が、屑鉄くずてつ瓦礫がれきからびた金属片をり分けていた。
 古代の異種族によって造られた遺跡が建っていたという場所。しかし今では、屑鉄ばかりが散乱する廃墟と化している。数年前、この地に侵攻した国によって接収され、たちまち解体されて根こそぎ兵器の材料にされてしまったという。
 少女は、誰も寄りつかなくなって久しいこの廃墟で、母親と二人、食うや食わずの生活を強いられていた。身につけているのは襤褸ぼろ切れ一枚。伸び放題の金髪はそぼ降る雨にしとど濡れ、千々ちぢに乱れて顔や肩に張りついている。
 素足を水溜まりに浸しながら、骨の浮いた細い腕で瓦礫をかき分け、山を崩していく。わずかでも金になりそうなものを見つけて拾っていくのが彼女の日課となっていた。
 透明な硝子窓のついた扉の破片を横に退け、赤錆まみれの手で額を拭い、顔を上げる。
 そこで、ふと何かが目についた。
 ──鳥がいる。いや。
 鳥の羽根を模したような金属片が、鉄屑の山から突き出ている。
 瓦礫に上り、背伸びをして、一抱えほどあるその金属片を引っ張り出してみた。
 ──きれい。
 鮮やかな白銀色をした、鳥の片翼。遺跡の装飾の一部だったのかもしれない。長い間雨風に晒されても錆びることなく、艶々つやつやと光沢を放っている。
 少女はしばらくそれに見蕩みとれて、それから嬉しくなった。
 高く売れるかもしれない。
 これを売って、たくさんのお金にすれば。
 おかあさんに褒めてもらえる──。
 少女は白銀の羽根を大事そうに抱えると、足取り軽く母親のいるねぐらへと戻った。

 彼女は、母親のことが怖かった。
 怖い顔をして恨み言を言う母親が怖かった。
 怖い顔をして彼女に出自を話す母親が怖かった。
 ──うちは『英雄』の末裔すえなの。高貴な一族なんだよ。
 ──本当なら、こんな惨めな暮らしをするはずじゃなかった。あいつに騙されなければ、今でも貴族としてお屋敷に住み、金にも困らずにいられたんだ。
 ──なのに、畜生。あの屑め。人でなしの守銭奴め。
 ──いいかい、アイシャ。金などなくても。どんなに落ちぶれても。
 一族の誇りを、使命を決して忘れてはいけないよ──。

 幼い少女には、話の意味はよくわからない。
 ただ、話すときの母親の顔が怖くてたまらなかった。
 だから、毎日頑張って鉄屑を漁って、金目かねめのものを探した。
 お金があれば。お金さえあれば。
 きっとおかあさんも、怖い顔をしなくなる。
 あんなことだって、しなくていいように──

 あんな、こと。

 塒の入口で、足を止める。
 拾った屑鉄を組んで作った小屋。その中で気配が──混じっている。
 母親の気配と、それをかき乱す、大きな気配。
 荒々しい息遣い。あえぎ声。
 ──ああ。
 また来ている。
 胸の鼓動が早くなり、金属の羽根を握る手が震え出す。
 中でどういうことが行われているのか、幼い少女には漠然としかわかっていない。
 ただ、母親がその代償に金をもらっていることは知っていた。
 行為の間、母親はずっと苦しそうな声を上げている。
 それが、まるで世界を呪う呪詛じゅそのようにも聞こえて──。
 聞きたくない。
 けれど、離れることもできない。
 入口の前でしばらく震えていると。
「おや、可愛い出歯亀でばかめがいるね」
 塒の奥から男の声がした。
 少女はびくりと肩を震わせ、それから頭が真っ白になる。
「雨に濡れて寒いだろう。中に入りなさい。一緒に暖まろう」
 朗々ろうろうとした口調だったが、不穏なものを感じて足がすくむ。
「やめて」
 奥の暗がりから、母親が金切り声で咎めた。
「何考えてるんだい。娘は未通娘おぼこなんだよ。アイシャ、あっち行ってなさい」
 子を邪険に追い払う母親に、男は変わらぬ声色で諭す。
「いいじゃないか。もう十は超えているんだろう? ならば知っていてもいい年頃だ。教えてやれば屑鉄探しなどよりいい稼ぎになる」
「駄目ッ。お願い、娘には手を出さないで」
 ──なにを。
 何を話しているの。
 自分の話だということはわかったが、言葉の意味が理解できない。それでも母親の悲鳴のような声を聞くうちに、恐怖はみるみる膨れ上がり、胸が張り裂けそうになる。
「金が欲しいのだろう」
 塒の奥で、姿の見えない男がささやく。
 少女は凍りついた。
 わたしに──言っている。
「お母さんを楽にしてあげたいのだろう」
 その通りだ。
 お金がほしい。たくさんお金を持ってきて、苦しんでいるおかあさんを助けたい。
 でも。でも。
 この声は──いやだ。
「さあ、来なさい」
 暗がりから、ぬっと腕が伸びて。
 彼女の細い脚を掴んだ。
 少女は尻餅をつき、足を引いて激しく藻掻いた。だが足首を握る手の力は強く、逆にずるずると引きずり込まれる。
 入りたくない。
 離せ──!
「いやあッ!」
 抱えていた金属の羽根を振り上げて、脚に絡みつく腕めがけて振り下ろした。
 鈍い手応えと同時に男が呻き、足首から手が外れる。少女は羽根を放り出すとすぐさま立ち上がり、小屋に背を向けて逃げ出した。
 後ろを振り返る余裕などなかった。呼び止める母親の声が聞こえた気がしたが、構わず全力で走った。
 足がもつれて何度も転んだ。泥混じりの水溜まりに突っ込んで、顔も身体も泥塗れになった。
 心臓が破れる寸前まで、駆けて、駆けて──ようやく足を止め、ぜいぜいと息をつきながら背後を確かめる。
 瓦礫の山と、濡れた地面。そして雨。
 誰も追ってくる気配はない。少女は安堵して息を吐き、それから自分の肩を抱いて震えた。
 ──寒い。
 濡れた身体を乾かしたかったが、塒には戻れない。
 どこか、雨をしのげるところは──。
 そう思って再び歩き出したが、全力で走った直後の足は思うように動いてくれず、左右に大きくふらついた。
 転びそうになって、すぐ近くにあった瓦礫に寄りかかった──そのとき。
「え──?」
 ぐらり、と身体が傾く。
 少女が手を置いた鉄塊が奥に押し込まれ、均衡バランスを失った瓦礫の山が──崩れた。
 暗転。衝撃と圧迫感。逃げる間もなく、彼女は落ちてきた金属片の下敷きとなった。
「あ、う……」
 身体に違和感を覚えつつも、無我夢中で覆い被さる瓦礫の隙間から這い出る。
 どうにか瓦礫から抜けて、地面に倒れ込んだが。
 ──なにか。
 なにかが、変だ。
 自分の身体に生じた違和感を意識した、その瞬間。
 違和感は激痛へと──変化した。
「う、ああぁッ!」
 火の中に放り込まれたような熱さを感じて、嘔吐えずきながらのたうち回る。
 いたい、いたいいたいいたい。
 尋常でない痛みに戦きながら、恐る恐る視線を落として自分の身体を確かめる。
 左脚は大きく腫れ上がっていた。金属片に当たって骨が折れたか。
 そして、左腕は。
 ──これが。
 わたし、の、うで──?
 二の腕のあたりの肉が、大きく裂けていた。
 肘の関節が砕け、その下は皮だけで繋がって、ぶらぶらと揺れている。肩口からはどくどくと血が噴き出し、自分の周りがみるみる紅く染まっていく。
「あ、ああぁ……!」
 泥の地面に横たわり、右手で傷口を押さえながら呻いた。
 出血は止まらない。指の間からしきりに流れて血溜まりを作る。
 ──死んでしまう。
 幼い少女でも、これが絶望的な状況だということは理解できた。
 鉛色の空を眺めながら、ぽろぽろと涙を零す。
「いや……だ……」
 ずっと、ずっと辛かった。
 それでも生きていれば、いつかはいいことがある。そう信じて頑張ってきたのに。
 何もなかった。
 瓦礫の山、怖い顔の母親、見知らぬ男ども。
 それだけだった。
 そんなものだけを抱えて、泥と血と雨に塗れて、誰にも見つからないまま──。
「死に……たく、ない……」
 氷の海に落ちたような寒さがやって来て、がたがた震える。痛みは混濁して、胸の底でよくわからないしこりとなっていた。
 痺れが頭まで浸食し、緩やかに目を閉じかけた、そのとき。
「生きたいのか」
 誰かの声が鼓膜に響き、目を見開く。
 激痛を堪えながら身体を動かして、前を見る。
 雨で霞む道の向こうに男が立っていた。大きな身体を丸め、ぎらぎらした目でこちらを見ている。
「こんな穢れた世界でも、まだ生きていたいか」
 塒の中にいた男ではない。声が違う。
 助けを求めるように、少女は頷いた。
「その出血では、もう長くは保たぬ」
 非情な宣告に、彼女は顔をぐしゃぐしゃにして首を横に振った。
無為むい足掻あがいても苦しいだけだ。受け容れれば楽になる」
 何度も何度も、首を振る。
「抗うか、はかなき命よ。生き地獄と知りながら、なおも現世に執着するか」
 何度も何度も、頷いてみせる。
「ならば──来い」
 男は背を向けた。
「自ら選んだ地獄への道だ。自らの力で歩み、堕ちるが良い。滅びゆく肉体に抗い、迫る死に抗い、お前は」
 生きたまま亡霊となるか──。
 そう言って、歩き出す。
 少女はほとんど無意識に、それを追った。
 右手で泥を掻き分けて。右足で泥に踏み入って。
 遠ざかる男の影を逃すまいと睨みながら、蚯蚓みみずのように這って、泥濘の道を進んでいく。
 生きる。生きてやる。
 こんな泥に塗れた、きたない世界だけれど。
 それでも、あたしは。

 生きて──。


 朦朧もうろうと浮かび上がる、何かの輪郭。
 徐々に視界は明瞭になり、それが女の顔だということを認識する。
「よッ」
 女は横からこちらを覗き込み、おどけるように顔の横で掌をひらひらさせている。
「具合はどうだい? 話せるかい?」
「……ああ」
 返事をしながら、上体を起こす。それから周囲を見回した。
 雑然としながらも整った部屋。彼女はベッドに横たわり、女はその傍らに置かれた椅子に腰掛けている。
 反対側の窓からは、板葺いたぶきの屋根と青空、それに山の稜線が臨めた。
 ──ポンポコ山。
「うちの馴染みの渡り鳥がさ、倒れてるあんたを見つけて運んできたんだ」
 こちらから尋ねる前に、女は勝手に事情を話す。
「最初は診療所に運んだらしいけど、ベッドが一杯だって断られたみたいでさ。だからってウチに連れてこられても困るんだけど。まぁ、あんたには世話になってたし」
「世話?」
 彼女が再び見ると、あれ、憶えてない? と女は肩をすくめる。
「ダムツェンの『ガンナーズヘブン』。あんたが酔っ払いを追い払ってくれた酒場の」
「……ああ」
 一ヶ月ほど前だったか。ふらりと立ち寄った酒場で彼女は一悶着ひともんちゃくを起こしていた。あのとき酔漢すいかんから店員をかばっていたマスターの妹が、この女だということにようやく気がつく。
「ま、これも何かの縁なんだと思ってさ。丁度ベッドも空いていたし」
 どうやらここは酒場の二階らしい。話によれば簡易宿泊所として渡り鳥を泊めることもしばしばあるという。
「宿賃は要らないよ。また飲みに来てくれれば。あの給仕のも礼がしたいって言ってたよ」
「礼?」
 聞き返すと、女は何故か含み笑いを浮かべて。
「あの娘、随分あんたのことを気にかけてたよ。危機を救ってくれた白馬の王子様、ってトコなんだろうねぇ」
 妙なことを言いながら、酒場の女は腰を上げる。
「そんじゃ、仕事に戻るかな。無理しないでゆっくり養生しなよ」
 賑やかな女が出ていくと、部屋は静寂に包まれた。
 彼女は鼻で嘆息してから、身体の具合を確かめる。
 若干の疼きは残っているが、痛みはほぼ消えていた。左腕も問題なく作動している。
 ──生きる。
 生きてやる。
 あのときの少女じぶんの決意を反芻はんすうしながら、金属で造られた左腕を眺める。
 ──まだ、生きている。
 だが、私は──。
 かさ、と微かな物音がして、彼女は窓を振り向いた。
 窓枠と窓の縁の隙間に、二つ折りにされた紙が挟まっている。
 彼女は徐にそれを取り、広げる。

『日没に所定の場所へ。
 至急、凶祓まがばらいの依頼あり』

 目を通すと、再び鼻で息をつき、紙を畳む。
 そして、裏側に書かれた宛名に気がついて──目をいた。

『“カノン”
 ──今は亡きアイシャ・ベルナデットへ』

 彼女は紙を握り潰す。
 そして壁に掛かっていた外套をまとうと、窓を開け放ち、飛び降りた。

 私は、ただの亡霊だ──。

「ファルガイアサミット?」
 指揮官が発した意外な言葉に、アシュレーは眉根を寄せた。
「それって、三ヶ国のトップが集まって話し合う会議……のコトだよね?」
 リルカが頼りなげに確認すると、ARMS指揮官──アーヴィングはその通りと返事をする。
「そのサミットを、ここヴァレリアシャトーで開催することが先程決定した」
「え、いや、ちょっと待ってくれ」
 話が全く見えない。
「どうしてシャトーで……いや、そもそもサミットは隔年開催じゃなかったか? 確か前回は去年だったような」
「通常なら次回の開催は来年だね。だが、それとは別に二ヶ国以上の同意があれば臨時に開くことができるのだよ」
「成る程な」
 いつものように本部の壁にもたれて腕を組みながら、ブラッドが言う。
「シルヴァラントをこちらの陣営に引き入れたことで、サミットの開催も可能になったという訳か」
「そう。君達の活躍のお陰でシルヴァラントの全面協力を取りつけることができた。これを利用しない手はない」
「利用って……」
 鼻白はなじろむアシュレーに、言葉のあやだよと貴族は目配せをする。
「それで、サミット開催の目的は?」
「魔物の急増及びテロリスト対策」
「そんな建前を聞いているんじゃない」
 かつての英雄に語気鋭くただされて、指揮官は苦笑した。
かなわないね、ブラッド君には」
 そして全員に向けて、腹のうちを明かす。
「こちらとしての目的は二つ。一つはギルドグラードと正式に交渉を行い、協力を取りつけること」
 ファルガイア北西部を治める工業国家ギルドグラード。ここの許可を得ることができれば、ARMSはファルガイアのほぼ全域で活動できるようになる。
 だが。
「そう上手く……行くだろうか」
 ARM技師の派遣すら突っぱねるような国だ。ARMSに対する拒否感は相当に強い。
「あの国は今やスレイハイム並の軍事国だ。魔物やテロリストにも自力で対処できる自信は持っているだろうな」
 ARMSなどに頼らなくても──ということか。
「まあ、そのあたりの説得は、我が陛下とシルヴァラント女王にお任せするとして」
 こちらの懸念をよそに、アーヴィングは話を進める。
「二つ目の目的は──バルキサスだ」
「え?」
 意外な単語にアシュレーの頭の中は再びかき乱される。
「あの厄介な飛空機械を破壊できれば、オデッサの戦力は大幅に落ちるはずだ」
「そ、それはそうだろうけど、それとサミットがどう関係して……」
 困惑するアシュレーの横で、ブラッドがこらえきれずに笑い出す。
「三大国家の首脳を餌にするつもりか。とんだたぬきだな」
「お褒めの言葉と受け取っておくよ」
 察しのいい戦士に涼しい顔で返してから、アシュレーたちにも説明をする。
「サミット開催における最大の懸念は、オデッサの襲撃だ。敵視する三ヶ国のトップが一堂に会するのだからね。連中にしてみれば絶好の機会に違いない」
「それに備えて対処するのが、今回の僕らの任務なんだな」
 開催地をヴァレリアシャトーにしたのも、それが理由か。
「そういうことだね。浮上させたヴァレリアシャトーであれば、地上からの襲撃はほぼ不可能となる。襲うのならば飛空機械を使うしかない──」
 飛空機械──バルキサスが襲撃してきた場合は。
「我々ARMSが迎え撃ち、破壊する」
 アーヴィングが言い切った。
「……敵襲まで織り込み済みで開催するということか」
 いつもながら物騒な男である。
「そのための準備も目下で進めている。アーミティッジ女史には迎撃用のアンカーを急ピッチで作ってもらっているところだ」
アンカー?」
「シャトーには外からバルキサスを撃墜できるような装備はないからね。人員が搭乗できる巨大アンカーをバルキサスに撃ち込み、直接乗り込んで機能停止させる」
「その乗り込む人員ってのは、わたしたちなんだよね、やっぱり……」
 今回もタダじゃすみそうにないなぁ、とリルカは口をへの字に曲げてぼやいた。
急拵きゅうごしらえなので乗り心地は保証できないが、確実に君達をバルキサスに送り込めるものには仕上げてくれると思うよ。ただ──」
 と、アーヴィングは視線をアシュレーの背後に向ける。
 そこには守護獣使いの少年──ティムが立っていた。初めてのミーティングに気後きおくれしているのか、先程からずっと身を固くして緊張している。
「初参加となるティム君には、いきなり厳しい任務となるかもしれないが──どうかな」
「が、頑張りますッ。……でも」
 強張った顔のまま返事をしたが、すぐに下を向いて。
「その……もし、みなさんの足手まといになりそうなら、やっぱり……」
「そういうことは気にしない方がいい」
 アシュレーは振り向いてたしなめる。
「誰だって足手まといにはなってるんだ。僕だってしょっちゅうみんなの足を引っ張ってる。それでも互いにフォローしていくことで、大事なときには大きな力を出すことができるようになる。仲間というのはそういうものだと、僕は思う」
「……と、半年前までろくに友達がいなかったリーダーが申しております」
 途中で茶々を入れてきたリルカの脳天に拳骨を落としてから、続ける。
「君は既にARMSの一員だ。フォローは僕らがするから、君は自分のできることを精一杯やってくれればいい」
「は、はいッ。頑張りますッ」
 まだ表情は硬かったが、今度は最後までこちらを向いて言い切った。
「くそ~……わたしにはそんな優しい言葉かけないクセに……」
 不公平だとリルカが頭をさすりながら抗議したが、アシュレーは聞かなかったことにした。
「ファルガイアサミット開催は五日後だ。実働隊の諸君はそれまで各自準備を整えておくように」
 以上、と指揮官が締めくくり、その場は解散となった。

 昼食後、新しい武器が完成したとボフールから連絡を受け、アシュレーとブラッドは館の一室に設けられた工房へと向かった。
「お待ちしておりました」
 扉を開けて応対したのはスコットだった。
「なんでスコットが?」
「トニー君の付き添いです」
 どうやらトニーも中にいるらしい。部屋番が妙にさまになっている少年の後をついて、二人は工房に入る。
「おう。久し振りだな」
 部屋の奥で牢名主さながらに胡座あぐらをかいたボフールが、髭まみれの顔を上げて出迎えた。
「ここンところ侵入者だの緊急出動だの、屋敷が騒がしくってかなわねぇ。知らねぇうちに空まで飛んでやがるし」
 作業に集中できねぇじゃねぇかと腰を上げ、背後にあった鉄の箱を抱えて二人の前に置いた。
「まずは、こいつだな」
「え? これ……ARMですか?」
 てっきり机代わりに持ってきたと思ったのだが。
「ミサイルユニットだよ。車両に搭載するやつよりは小型だが、威力はそう変わらねぇはずだ」
 言われてみれば確かに砲口が側面についていた。複数の弾を同時発射できるようになっているらしい。
「反動はなるだけ抑えてあるが、できれば地面に固定してから使ってくれ。使い方は……わかるな?」
「ああ」
 ブラッドは立方体のユニットを横に倒したり裏返したりして、つぶさに確認をしている。
「ミサイルユニットをここまで小型化できるとは、大したものだ」
「対モンスター兵器となれば、やっぱりミサイルだからな。難儀はしたが、やり甲斐はあったぜ」
 ボフールへの注文は、強力なモンスターにも通用するARMというものだった。シャトーを襲撃したあの怪鳥との戦い以来、アシュレーたちは装備拡充の必要性を強く感じていた。
「それと、お前さんにはこれだ」
 ボフールは次に、棚の引き出しからカートリッジを取り出してアシュレーに手渡した。
 アシュレーは革のケースを開き、中を確かめて──目をみはった。
「これは……」
 槍の穂先のように鋭い弾頭に、異様に短い薬莢やっきょう。これまで様々な銃弾を見てきたアシュレーでも初めて見る形状だった。
「散弾だよ。つってもかなり特殊だがな」
 縮れた顎髭を弄りながら、ボフールが説明する。
「目標に命中すると破裂して弾が散らばるタイプだ。それに加えて、命中しなくても時間差で破裂する」
「時間差?」
「地面と水平に発砲した場合、大体三十メートル先で破裂するよう調節してある。うまく使えば複数の敵にまとめてダメージを与えられる」
 空を飛ぶすばしっこい敵にも有効だな、とつけ加えてから、棚に置いてあった煙草に手をつける。
「まぁ、使い方はお前さん次第だ。危ねぇ弾だから周りに気をつけて、上手く使ってくれ」
「は、はい」
 カートリッジのケースを閉めながら、アシュレーは礼を言った。
 使用する場所と機会は限られそうだが、確かに使い方次第ではかなり役に立つかもしれない。なるべく『奥の手』に頼るような事態にしないためにも──戦い方の選択肢を増やすことは重要だろう。
「今回依頼された分は確かに渡したぜ。ッたく、やっとゆっくり寝られるぜ」
 ここンところ徹夜続きだったからな、とボフールは煙草をくわえて火を催促した。すかさずスコットが近づいてライターを取り出す。
「ご苦労様でございました。ボフールさんも、トニー君も」
「トニー?」
 そういえば、まだトニーの姿を見ていない。
 訝しげにスコットを向くと、少年は煙草に火を点けながら、視線で工房の奥を示す。
 部屋の奥は木の板で間仕切りがしてあった。アシュレーは歩み寄り、そっと仕切りを覗き込んでみる。
「……ああ」
 ベッドの上に、トニーが突っ伏していた。力尽きて倒れ込んだままの格好で……爆睡している。
「そこは俺の寝床なンだがな。邪魔だから、それも持って行ってくれ」
 トニーをこき使ったと思しき張本人は、美味そうに煙を吹かしながらアシュレーにそう言った。

 ブラッドと別れ、未だ目を覚まさないトニーを背負いながら二階の廊下を歩いていると、不意にスコットが立ち止まった。
「おや、リルカさんとティム君ですね」
 少年は廊下の窓から外庭を見下ろしている。アシュレーもその頭越しに覗き込んでみた。
 枯れた噴水の脇で、リルカとティムが向き合っていた。リルカが何やらしきりに話しかけ、ティムはそれに対して困ったように首を振ったり下を向いたりしている。
「わたくしなりの結論といたしましては、いわゆるひとつの『新入りイビリ』というやつではないでしょうか」
「え、ええ?」
 そんなことはないだろうと思いつつも、気になったのでアシュレーは窓を開けて二人に声を掛けてみた。
「あ、アシュレー」
 リルカが気づいてこちらに手を振り、それから背中のトニーを見て首を傾げる。
「トニー、どうかしたの?」
「ああ。工房で寝込んでしまったから部屋に運ぶところなんだけど……」
 そっちこそ何してたんだ、とアシュレーは尋ねた。
「んー、これからティムと勝負しようかなって」
「勝負?」
 聞き返すと、リルカはポーチから呪符クレストグラフを取り出してアシュレーに見せた。
「ずっと練習してた『ヴォルテック』を、昨日やっと覚えたんだ。だから試しに使ってみようと思ったんだけど、聞いたらティムも同じ風魔法を使えるって言うから」
「だ、だからボクのは魔法じゃないです。ガーディアンの力を借りて使う、特殊な術で……」
 ティムは口籠くちごもりながら訂正するが、同じようなものだよと適当なリルカにあしらわれた。
「せっかく同じような魔法が使えるんだから、勝負した方が面白いでしょ。より大きい風を起こした方が、アルテイシアさんのおやつを一人占めできるってコトでさ」
 いいよね? とティムに念を押したが、少年は杖を抱えたまま硬直している。どうやらこちらは乗り気でないらしい。
「も~、煮え切らないなぁ。やるの? やらないの?」
 リルカが詰め寄って返答を求めると。
「受けて立つのダッ」
 噴水の縁石に置いてあったティムの鞄からプーカが飛び出して、主の代わりに応じた。
「ち、ちょっと、プーカ、勝手にそんな……」
「ティムはもっと自信を持つのダ。こんな増幅器アンプだらけの魔法使いなんかに負けるはずがないのダ」
「……言ったわね」
 無遠慮な亜精霊に痛いところを突かれたらしく、リルカの顔つきが変わった。
「それじゃ、あんた魔法の的になりなさい。亜精霊なんだから死ぬことはないんでしょ」
「望むところなのダ。プーカに思いきりぶつけるのダ」
 おろおろする少年を差し置いて、魔法少女と亜精霊は向き合って火花を散らした。
「何やら不穏な空気ですが、よろしいのですか?」
「え? ああ……そうだな」
 スコットに促され、ようやくアシュレーが口を開きかけたが一足遅く、リルカは呪符をかざして詠唱を始めてしまった。
裁定の旋風吹き荒れ、浮薄なるもの悉く放逐せりシュトルモカージ・マルペゼクジスタード・プルギ・シーオ
 光を帯びた格子柄のパラソルを、プーカに向けて勢いよく振る。傘の先から放たれた光が無数の粒子となって広がり、それが消滅すると同時に小さな竜巻が発生した。
「どうだッ」
 旋風に高々と舞い上げられた亜精霊を見て、リルカは鼻を鳴らしたが。
「ぐるぐる回されただけなのダ。楽しかったのダ」
 風が止むとプーカはすぐに降りてきて、わざわざ魔法を使った当人の前で憎まれ口を叩く。
「次はティムの番なのダ」
「や、やっぱりボクもやるの?」
「当然なのダ。教えた通りにやれば大丈夫なのダ」
 小さな相方に背中を押され、仕方なくティムはリルカの視線を気にしつつ、杖を構える。
 しばらく半目になって集中していると、噴水に置かれた鞄から光のもやのようなものが湧き出て、少年の身体に流れ込み始めた。鞄の中に入っているミーディアムが反応しているのだろう。
 光が全身を包み込むまでに広がると、ティムは目を開いて杖を掲げた。
「エッジ……テンペスト!」
 その瞬間、外庭に突風が巻き起こった。
「うわッ」
 いきなり吹き込んできた猛烈な風に、アシュレーは蹌踉よろめいて尻餅をつく。スコットも頭を抱えて身を屈めている。
 突風は一瞬で収まったが、窓の外では巻き上げられた砂や小石や木の枝が雨霰あめあられとなって降り注いでいた。
 アシュレーは立ち上がり、こんな騒ぎの中でもまだ寝ている背中のトニーにひとしきり呆れてから、再び窓を覗き込む。
 下の庭では、ティムが杖を下ろして茫然と立ちつくしていた。自分でもここまでの威力は予期していなかったのだろう。
 その背後ではリルカが面食らったように座り込んでいる。植え込みの樹木は大きく傾き、噴水は飾りの彫刻が欠け、下の階の窓は枠を残してことごとく破れていた。
「ティムの場合は、まず力を制御することを覚えるのダ」
 この状況でもひとり平然としてるプーカが言った。
「それと、『エッジテンペスト』じゃなくて『テンペストエッジ』なのダ。せっかくプーカがつけたナイスネーミングを間違えないでほしいのダ」
「あ……ごめん。でも、やっぱり使うとき名前を言うのは、ちょっと……」
「なに恥ずかしがっているのダ。こういうのは形が大事なのダ。格好良く唱えてキメれば自信がついて威力もアップするのダ」
 聞くからに胡散うさん臭いアドバイスだが、ティムは神妙に聞き入れて頷いている。素直な少年だけに、この亜精霊に妙なことを吹き込まれていやしないかと、アシュレーは少し心配になる。
「とにかく、勝負はティムの勝ちなのダ。リルカの分のおやつはプーカが美味しくいただくのダ」
 そう言ってプーカは通用口の方へと向かう。
「あ、待ってよプーカ」
 鞄を取って追いかけようとするティムを、リルカが呼び止めた。
「五日後ッ」
 リルカは立ち上がり、振り返るティムに向けて指を突きつけた。
「五日後の本番までには、もっと威力上げて、すんごい風を起こせるようにするから。見てなさいよッ」
 対抗心むき出しに宣言すると、少女は亜麻色の髪を振り乱して屋敷の正門へと走り去っていった。
「リルカさんにしては、珍しい態度でしたね」
 スコットが、アーヴィングよろしく顎に手を当てながら言う。この少年はいつもこうして傍観している気がする。
「そもそもティム君の術はガーディアンから引き出しているのだから、魔法と比較するのは意味がないと思うのですが」
「そうだな……でも」
 リルカにとっては、そういう問題ではないのだろう。
 門を出ていく小さな背中を、アシュレーは目で追う。
 ──五日後まで、か。
 五日後──ファルガイアサミットの日。
 どうして敢えてその期限を口にしたのか、推し量ることはできなかったけれども。
 彼女は彼女なりに抱えているものがあるのかもしれないと、アシュレーは思った。

 史上初の空中開催となった第七十一回ファルガイアサミットは、一人の男の怒号で幕を開けたという。
「何だこの館は。なぜ浮上しているッ!」
 口角泡こうかくあわを飛ばして怒鳴ったのは、工業国ギルドグラードを束ねる頭領マスター。大きな羽根のついた山高帽やまたかぼうを被り、なめし革の短い上着を羽織ったその出で立ちは、国の主というより猟師のようでもあった。
「これは巨大な飛空機械ではないかッ。独立部隊風情ふぜいがこんな兵器を作るとは、ど、どういう了見だ!」
「兵器ではなく移動手段ですよ、頭領」
 会議の進行役として末席に着いていたアーヴィングが応じる。
「兵装はメリアブール軍より譲り受けたリニアレールキャノン一基のみ。これも自機の防衛目的で配備したものであり、自主規定により使用を限定しております」
「だ、だからと言って……おい、メリアブールよ、あんたはいいのか? 一介の貴族ごときにこんなものを持たせて」
「有能な者に任せるのが国益に適うと判断したまでよ」
 例によって豪商の貫禄を漂わせたメリアブール王が、泰然たいぜんと発言した。
「腹の読めぬ男ではあるが、部隊の指揮官としてはすこぶる優秀だ。我らも幾度も助けられておる」
 のう女王陛下、と机を挟んだ向かいに座るシルヴァラント女王に話を向ける。
「ええ。我が国で発生したテロに際し、一人の犠牲者も出さずに撃退してみせた手腕、それは見事なものでしたわ」
 盛りを過ぎてなおあでやかに咲き誇る美貌の女王は、花弁かべんのごとき唇を緩ませて微笑をたたえた。髪を束ねた頭に戴く宝冠は絢爛けんらんと輝き、その美しさに花を添えている。
「この飛空機械も、緊急時に迅速に対処して頂くための手段とすれば頼もしい限り。軍艦ではなく空飛ぶ館というのが、また心憎い趣向ですわね」
 痛み入ります、と館の主は頭を下げて畏まる。
「あ、あんたら、何をそんな呑気な……」
 ギルドグラードマスターは口を開けてわなわな震え、それからアーヴィングを睨んだ。
「儂は騙されんぞッ。ARMSなどという不埒ふらちな連中は、我が領土に一歩たりとも入れさせん!」
「相も変わらず強情よのう、ギの字よ」
 メリアブール王は大儀そうに嘆息する。
其方そなたも例の決起表明は見たであろう。彼のテロリストをこれ以上のさばらせぬ為にも、我らは団結して事に当たらねばならぬというのに」
「団結など必要ないッ。各々がテロに備えて撃退すれば良いだけのこと。あんな反乱軍崩れのテロリストなど、我が国の最新ARMで蹴散らせてみせるわッ」
「イスカリオテ条約をお忘れですか、頭領?」
 女王が眉をひそめる。
「五年前の取り決めにより一定以上の軍備保有は禁じられているはず。一方でオデッサはスレイハイム戦役の『遺産』に加え、おぞましい禁術にまで手を染めていると聞きます。条約を遵守する限りは、一国で対抗するのは到底無理だと思いますが」
「そういえば、最近何やらコソコソと動いているらしいのう、ギの字よ」
 そう言って目配せする王に、工業国の長は狼狽ろうばいする。
「な、何がだ」
「我が国は貿易を主な生業なりわいにしておるからな。カネとモノの流れに関する情報は何かと入ってくるのだ。ここのところ遺跡の発掘品をやたら買い付けているらしいではないか」
「遺跡の発掘品というと、ロストテクノロジーですか。まさか……『超兵器』の開発を?」
「違うッ!」
 鼻の頭に脂汗を浮かせながら、頭領は叫んだ。
「発掘品は正統なARMの製作に使っているだけだ。断じて条約に違反するようなモノではないッ」
「そうやって焦るところが、また怪しいのだがな」
 まあこちらとしても証拠はないからの、とメリアブール王は矛を収めた。
「ともかく、条約に縛られる我らではオデッサの無法を止めることは不可能なのだ。ここはひとつARMSに任せ、我らは可能な限りの支援を行うことが唯一の対抗策であろう」
「しかし、ARMSとて結局は条約に縛られるのではないのか」
 まさか特例を認めろという話ではないだろうな、と頭領は訝しげにアーヴィングを見る。
「我々も条約は守りますよ。いや──破る必要がない、というのが正しいか」
「はぁ?」
 胡乱うろんな視線を向けるギルドグラードマスターに、ARMS指揮官は不敵な微笑を返して言った。
「ARMSにおける最大の武器は、飛空機械でも兵器でもなく──人間です」
「そ、それはどういう……」
 頭領の問いかけを遮るようにして、館内に警報がけたたましく鳴り響いた。
〈緊急通達。北西に敵機と思われる飛空機械を確認。約三分後に接触します〉
「て、敵襲ッ!?」
 腰を浮かしかけた頭領を制してから、アーヴィングは首脳たちを見渡した。
「おあつらえ向き──と言っては不謹慎かもしれませんが、良い機会だ。我々の力をご覧に入れましょう」
 そう言って、会議室の壁に掛けられた大鏡を示した。
 一同が注視する中、朦朧もうろうと鏡は曇り──像を結ぶ。
 映し出されたのは、館の地下だった。何かの機械が取りつけられた射出機カタパルトの前に、鼠色の服を着た作業員たちが整列している。
「映像か。オデッサがやったのと同じ仕組みだな」
 大したものだとメリアブール王が感心する中、アーヴィングは通信機を取り出す。
「総員に告ぐ」
 館内の隊員たちに向けて、ARMS指揮官は指令を発した。
「予定通り、これよりバルキサス撃墜任務を開始する」